2017-05-29

世界をよぎる鳥の影

外はいい天気だった。すこしずつ夏が近づいている。風が気持ちがいい。

わたしがいる郊外都市は空気がきれいで、自然も多く、かつては山だったらしい。野生の蛍がいるのがその名残だが、一方野生の動物や昆虫も多い。つい最近も道を散歩しているとスズメバチを見かけたが、どこかの梢に巣があるのだろう。わざわざ自分より何百倍も大きい動物を理由もなく襲う昆虫などいないとはいえ、あの高周波の羽音を近くで聴くとぞっとする。アブラゼミぐらい大きいし、子供が襲われたら重症、下手したらショック死ぐらいはしかねない。以前、郊外の山の中古家屋を見て回っていた時に、よさげな家がひとつあったのだが、近くにスズメバチの巣があるということで断念した記憶がある。自然のゆたかな環境で暮らすのはけして悪いことではないが、野生の生き物と共存する知恵やノウハウがなければ、安全に暮らすことはできない。温暖化でデング熱が流行するようになれば、蚊ですら危険な生き物に変わる。とはいっても、山の近くの井戸水はうまく、緑は目に優しく、ホトトギスが鳴く森の近くで暮らすことはそれなりに楽しいものだ。そしてそんな中で机にむかって青白いディスプレイにひたすら向かっている仕事というものはどうなのか、と思わないこともないが、そもそも人間は半自然的存在なのだ、とつぶやきながら、文字を入力する。

どこかで鳥が鳴いている。だがその姿はみえない。この世界をこうして鳥がよぎる。みえないものなど、存在していないのと同じなのだ。

2017-05-28

電車で見かけた子供

比較的暑い一日だった。東京都内で一般の会合があったので参加した。

東京へ向かう電車の中でスマートフォンを操作していると、隣に座って旧型の端末を使っていた子供が、ものすごくうらやましそうな顔をして、わたしの手元をじっと見ていた。はっきりその子の顔を見たわけではないが、その視線が突き刺さるようで、なんだかかわいそうになって、スマートフォンをポケットに戻した。すると今度は残念な気配が伝わってくる。子供を横目でみると、ふたたびさきほどの端末をいじり始めた。それでなにをしているのだろうと様子を伺ってみると、アドレス帳を開いたり、閉じたりする操作をしているだけだった。たぶん、親に持たされてはいるが、高額のパケット料金など払いたくないため、利用制限がかけられているのだろう。まずますかわいそうになった。

やがて、子供はどこかの駅でガラケーを握りしめておりていった。大人になったら、好きなものを自分で選んで買うことができる。だが、子供の頃《得られなかったもの》は二度と手に入らない。そう思って、窓の外をみる。子供の姿はとっくの昔にみえなくなっていた。

2017-05-27

おじさんブログのつくりかた

今日は晴れ。とくに特筆すべきことはなかった。明日は都内で会合があるためその準備で忙しくしている。これまでの作品をまとめたり、雑誌をひとに送ったり、紹介状を依頼したりとか、そういうことだ。結局この社会はコネと根回し(あるいは飲み会)がすべてで、つまりその両方がない人間は死ぬ仕組みになっている。なければつくるしかないし、あるいは、圧倒的なものをつくるほかない、ということでもある。

お金も社会的地位もなく、ひとがうらやむようなものをなにひとつもっていないわたしのような人間に書くべきことは特にない。せいぜい美味いものをつくって食べるぐらいだ。いつも常備しているのは煮干し出汁のみそ汁で、出汁は数日に一度大量につくって利用の際に火をいれる。衛生にはわりと注意しており、ほぼ毎日なにかしら作っているが、食あたりの経験はない。台所と調理器具の清掃もまめに行う。これは兼業主夫としては自慢できるポイントかもしれない。

ブログのアクセスログを見ていると、カリフォルニアに在住の米国人主婦らしきひとのブログがあった。Bloggerシステム上では横にリンクする仕組みがあるようでたまに奇妙な国からアクセスがある。そのブログには生活の様子がつづられていて、あらためてインターネット、いやブログはいいものだな、と思わされた。ある程度まとまった分量の日記的文体、写真によって描かれる普段の生活の一シーンは、それぞれのエントリに俳句的なおもむきを与える。それはフェイスブックにもツイッターにもないものだ。

そう思いながら冷蔵庫の前で今晩の献立を考える。餃子を皮からつくるのは満足度の高い趣味だが、粉が大量に飛び散るため育児中にはおすすめできない。冷蔵庫には安物の出来合いの餃子がはいっている。片栗粉をすこし溶いた水をいれて蒸し焼きにして最後強火にすると皮付き餃子ができる。この餃子はどこで作られたのだろうかと思う。日本ではないかもしれない。まさか米国ではないだろうが。そういえば主婦のブログにはプロフィール写真が貼られていて、いい笑顔だった。みな、さみしいのだろうか、と思う。ネットではみながつながりを求めている。だがそれを得ることはけしてできないのだ。


参考記事:
おじさんになりきってLINEをする『おじさんLINEごっこ』が大流行」(Naverまとめ)
おじさんLINEごっこが女子に流行中。そのキモい特徴とは」(女子SPA!)